ふつうをやめて魔女になることについて

人間として基本的に「やっておくべきこと」といえば、健康を維持することと、信用を守ること、できるだけ人を怒らせたり苦しませたり悲しませたりしないこと、くらいなのでは、と思う。ほかにはなにがあるだろうか。やっぱり、歯は磨いた方がいいし、仕事の返事はできるだけ早いほうが気分がいい。でもそれ以外でやることってなんだろうと思う。

前はもっとこうするべきだとかこうあらねばとかが多い性格だったような気がするのだけど、最近もうそのころの感覚がかなり抜け落ちており、強いて言えば私の場合ことばやデザインやコーヒーの挿れ方に関する自分のルールが増えてきているので、そういう神経質さというか気にしておきたいところというのはある。

いやそれは神経質というか「こだわり」というもので、生きるにつれて大きくなっていくとは思うのだけど、私がそうしたいこと以外の「普通こうするべきでしょ」というものをだいぶ脱ぎ捨てることに成功(成功?成功って表現はおかしいな)したきがする。

その上で「こだわり」は強まっていくのだろう。これが多分「人が歳を取るにつれて他人と暮らせなくなっていく」といわれることの第一歩なのかもしれないが、逆にその「老い」が私はとても愛しい。

朝何を食べるかは私が決めるし、休日にどう過ごすかは私が決めるし、どこでなにをやるかは誰彼にジャッジできるものではない。やりたいことがあればそれに必要な行動をする、シンプルであればあるほど結果がすぐきたりする。なんか、結局すきにやるだけだなと思う。すきにやっていいんだろうな。

時折その「すきにやる」ということに対してこの世に一人取り残されたような孤独を味わうときがあるけど、その孤独さとかむなしさで「とにかく(やりたくない仕事をして)お金を稼いで生きていこう」とか「やはり結婚した方が」とかそういった揺れが起こっていた時期もなんかあっというまに通り過ぎてしまい、本当に今「すきにやろう」しかない。

可能性としてまだ「普通」にもどるかもしれない、そのことに対する恐れがある、みたいな悩み?を友人に話す(とくにうまくかけない時ほどすぐそういう話をしがち)のだけど「田村さんには無理とおもうよ」としか言われん。言われん。わたしは何になろうとしているんだろうか。

また魔女みたいな見た目の、好きな作り手のワンピースを買っちまった。おなじようなの二着目。いや、たぶん三着目。たぶんわたしは魔女になりたいのだとおもう。

そういえば「黒にもいろいろある」と言いながら黒い服ばっかり着てるデザイナー、だれだったかなと調べる。マイケル・コースだった。彼の夫は青いシャツばかり着ている。私の母親も紫色の花柄ばかり選ぶ人だ。だからってべつにどうってことはないんだけどもね。