転生したらスライムだった件。を見て思ったこと

「転生したらスライムだった件。」を見た。ネタバレを含むのでお気をつけください。

痛みや苦労を伴わないゲーム的進化の仕方がとても今風だなと思う。つくづく私たちは「待てない」ひとたちになってしまったみたいだ。もちろん、そのスピードで環境が変かしていくのは面白いし、作業をしながら約二日で流して見終えた。(見ようと思えば一日ワンクールくらいのペースで見る)

物語冒頭。37歳独身の姿が思いの外若く描かれていて驚く。今時だなあ。あっという間に通り魔に遭い(偶然)異世界に転生してしまう。そのさいに「スライム」として転生したので痛覚や熱耐性などをもち、しかも「大賢者」というSiriみたいな解析システムと、「捕食者」という食べたものを取り入れて使える+量産できるシステム、などなどのチートスキル(チート、という言葉は本来このように使うべきじゃないらしいのだが)を手に入れる。

そのある意味無敵状態を組み合わせ、スライムはどんどん強く偉くなっていく。食べた者の技も使えるようになったり、組み合わせが増えていくので、必然的に初めから最強の主人公。キャラクターもどんどん増え、はじめはスライムであることを馬鹿にしたりなどいろいろあるが、大体みんな配下になっていく。しかもモテモテである。権力。ハーレム。

ぼーっと見ている分にはおもしろいのだけど、つい立ち止まってしまう人間のため思い切り立ち止まって批判的に書く。これ、ライトノベルでとても売れてアニメになった作品なのだが、これが売れるということは読者が「精神的に消耗している」んだろうなと思う。楽してえらくなりたい。痛みも苦しみもなく物事をすすめたい。

いやそこを否定したいわけではない。私には「辛くなったときは忍たまを見るのがいいよ!」という友人がいる。「癒し」としてこういう作品は必要なんだろうな。

ただそれでもまだ立ち止まってしまう。

すごいおっぱいの大きなお姉さんがでてくる。スライムはお姉さん初め「女性の胸」に喜んで抱かれ、普通に喜んでいる。女性陣は「かわい〜」とぬいぐるみのようにぎゅっとする。一緒にお風呂にも入る。遠慮もない。「スライムだから」。

ゴブタという「見た目のあまりよくない、強くなさそうな」キャラクターに対してとても理不尽な態度をとる。わかりやすい暴力でいじめる。多分、「シーンが面白くなるから」。

幼い見た目の露出過激目な女性キャラ(バカ、という設定をつけている)の身体を「つるぺた」と言い、「ちょろい」と思いながら「マブダチ」として仲良くなる。

それ以外は、「とても優しく、いい人」な主人公だと思う。傷ついたものをすぐに癒す力もある。不要な戦いはしないし、「害のないもの」であるアピールをいつもする。うまいなと思う。

もし男性の姿のままでいれば、「害のない」ものとしておっぱいに埋もれられない。スライムは見た目も可愛くて傷つける要素がない。主人公は「自分はそもそも無害である」ことを信じたい(それでいて胸は触りたい)「いい人」の願望の現れなんだろうなと思う。

「女」に嫌がられたり、気持ち悪がられたり、不審な目で見られることに疲れてしまっているのだろう。

スライムは「無性」だ。だから女性との混浴もできる、という倫理観なのかもしれないが、「照れている」し「喜んでいる」主人公は、なぜ「遠慮」しないのか。絶妙に甘えていられる設定、許される設定を作っているなと思う。

女性キャラクターはみんなかわいいし「ほぼ全員自分のことが好き」で拒絶されない(自分が王様であるから、心から慕われているから)ので、体だけでなく心が傷つくこともほとんどない。

しかも人間化した自分すらも「かわいい」。精神は37歳男性なのに、声も体も顔も「かわいい」。「自分でないものになりたい(望んでスライムになりたかったわけじゃない)」「でも女の子の胸はさわりたい(触りたいとは言ってない)」「権力も欲しい(欲しいとは言ってない)」全ての欲望を手に入れた「スライム」(意識は中年男性)。

この願望は、まさかの、バ美肉おじさんなのではないか。

自分は女性の肉体を持っていることに疲れているが、男性の肉体を持っていることに疲れている人も多いのだろう。本当は誰も傷つけたくないし、傷つける気もないのに、傷つかれちゃうんだよね。でもおっぱいがあるとついそういう目で見ちゃうんだよね。それを察知されて気色悪がられて、傷つくんだよね。かなしいね…。みたいな想像をした。

でもね、このアニメを見た私は、きつかったのよ。その異質さが。

ある意味ぜんぶ「童貞の夢」なのかもしれないな。